Write to Do the Right Thing

I create things and write about them here as well as other stuff. Views are always mine.

Turned out to be nothing なんてこったい

 

何年かが過ぎた.奈緒子さんは大学を出てからすぐには就職しなかった.奈緒子さんが大学を卒業する頃には,旦那さんは有名な弁護士事務所で働いていて,生活のためには働く必要がなかったからだ.

旦那さんのおかげで,都内の高級住宅地に住むことができた.ここは外国人も多い.奈緒子さんの希望もあって,彼はそういう場所を選んでくれた.だから,ガーデニングのワークショップに行った時に出会い,親友になったフィンランド人のカトリ(名前のつけ方が安易)をはじめ,近所に外国人の友達もできた.

子供はできなかったが気にもしなかった.最も欲しいとも思っていなかったけど.奈緒子さんは,社会人ならば当たり前のように経験する生活感のようなものを嫌った.そこは自分のあるべき場所ではないような気がしていたからだ.そう,大学生の頃に短い期間であったあのセスの澄んだ目のように綺麗なものだけ見ていたかった.

そして,生活感とは切り離された生活ができることを非常に嬉しく思って居た.しかし,ただ一つだけ引っかかることがある.それは,奈緒子さんが旦那さんを愛していないことだ.いや,今は愛しているかもしれない.だけど,結婚して,という時はそうじゃなかった.ただ,自分の人生をスタート・オーヴァーしたかった.

スターティッ・オーヴァーっていうのは奈緒子さんの好きな言葉.いつのことだったかある政治家が「日本をリセットしたい」と云って居たけど,英語のできる奈緒子さんはそういう言葉は使わないのだ.普通の英語を話す人はStart it over.という.今までの自分に別れを告げて新しくやり直す.それがスターティッ・オーヴァーだ.

Turned out to be nothing なんてことはないかのように

(本当はなぜ奈緒子さんがTOEICを連続受験するのかの話だったのだが,なかなか進まない…) 

 電話は誰からか? もし,君がセスが国際電話をかけてきたと思ったら,君は世の中で苦労するかも.いい人だってことでもあるけど.世界はそうは動かない.かけてきたのは,もちろん,さっきまで後輩とメイクアウトしていたあの彼.

「ずっと連絡したんだけれど繋がらなくてどうしたんだよ.こっちは心配して夜も寝られなかった」

その彼は云った.奈緒子さんの頭の中には,さっき見たばかりの新入生を前にしてギラギラと欲望に満ち溢れていた彼の姿が浮かんで,笑いそうになる.

「忙しかったのよ」

「別に僕のことを嫌いになったわけじゃないんだよね」

ここで,奈緒子さんは自分が一つ彼より優位に立っていることに気づく.今,彼女は,自分が何であるか,そして相手が何を望んでいるかが見えている.だから,世界は自分の手のひらのように動いて行く.

「あなたが私のことをよく考えてくれるならば,前みたいにお付き合いしてもいいけど」

「もちろん,いつだって僕は君のことを考えているよ.というか,君のことしか考えていない」

ここで,彼が嘘ばっかりついているかどうかなんかはどうでも良かった.彼は結局自分が最近起こったことについては関心がないのだ.これでゲームは勝ちだ.奈緒子さんの頭にはある短い英語のセリフが浮かんだ.でも,ゆっくりと深呼吸をして,彼女はそれを日本語に訳した.

To be continued ...

Turned out to be nothing やっぱりなんてことはない

 

 でも,チッチとサリーの恋が最終的には上手くいかないように(いくのか? 知らないけど),奈緒子さんとセスが一緒に居られるのはすごくわずかだった.別れは突然やってくるというより,セスの持つ帰りの航空券にはっきり書いてあるわけで.休暇が終わればネブラスカに.奈緒子さんもネブラスカに行こうと頭の中では考えたが,Xデイが近づくにつれて別れを受け入れる準備はできていた.

正直,奈緒子さんにとって大事だったのはセスではなかったのだ.だけど,彼と濃密な時間を過ごしたことで奈緒子さんにとって何かが変わったのだ.だから,空港でお別れのキスをした時には,ミントのような清々しい風が彼女の心の中で吹いていた.

 清々しい風がもたらしたものは必ずしも清新な行為とは限らない.案外,爽やかなものというのはどす黒い・いやらしいものと同居していることがある,ということはマクドナルドで夕暮れにアップルパイをかじる女子高生でも知っていることだ.空港からの帰り道,奈緒子さんは面白いものを目にする.

 誰もがまっすぐ家に帰りたくないという日がある.奈緒子さんにとってはセスと別れて空港を後にした日がそれに当たる.なんとなく一人で飲みたくなってある繁華街に足を運んだ.そのとき,奈緒子さんは熱い抱擁を交わしている若いカップルを目にする.二人とも彼女の知り合いだった.女性は,大学の後輩だった.まだ1年生のアイドルのように可愛らしい子だ.そして,男性は,そう,すっかり忘れていた付き合っている彼だった.

 2人はあまりに密着しながら歩いているので奈緒子さんには気づかなかった.やり過ごしながら,奈緒子さんは心の中で変なガッツポーズをしていた.どうしてそういう感情を抱いたのかわからない.なんとなく,「なかなかやるじゃん」という声を彼にかけてあげたくなったのだ.

 予定通り,奈緒子さんは,前,友達に教えてもらったバーに云って腰掛ける.よくわからないおしゃれなカクテルを注文して腰をかけると,携帯電話が鳴った.

To be continued ...

Turned out to be nothing なんてことはなくはない?

 

 「え,まさか」

びっくりした奈緒子さんが顔を上げると,若い男性の怪訝そうな顔が見えた.別に厭らしい笑いをしているわけでもなく,落としたお金を拾い上げるような感じで.

 奈緒子さんはこの時のことを一生忘れない.彼女がこういう格好で突然外に出ることはこれからもあるかもしれないから,そんなに珍しいことではない.彼女が決して忘れないのはこの青年の澄んだ目だ.そう.この時,彼女はこの青年に引き寄せられて行った.

 青年はセスという名前のアメリカ人だった.別にアメリカ人としてはそんなに珍しい名前ではないのだが,ジャックやロバートという名前しか知らなかった奈緒子さんにはすごく新鮮な響きだった.不思議なことに全然日本語が話せなかった.大学の留学生かと思っていたら,それは彼のお姉さんで,彼はたまたま休暇中にネブラスカから訪ねてきたのだという.

 青年は夏の間はずっとお姉さんのところにいるという.この間,奈緒子さんはずっと彼にぴったりくっついていた.片時も離れようとしなかった.自分に彼がいたこととか,授業がどうとか,そういうことは全て頭の中から消え去っていた.ただただ,彼のそばに居たかった.なぜ,ということを考えようともしなかった.いや,ちょっとだけ考えて居たのかもしれない.それは,この時だけ,彼女は自意識を忘れるような,真の歓びを感じた気がしたからだ.そして,そのことが何よりも大切なようにその時は思えたのだ.

To be continued ...

Turned out to be nothing 続々・なんてことはない

あの一件があってから,彼の評価は下がった.それからしばらくして奈緒子さんに衝撃的な出会いが訪れた.

奈緒子さんはしっかりしているようで少しずれているところがある.時々普通の人ではあり得ないような痛恨のミスをすることがある.ある日,奈緒子さんは下着を着て大学に行った.出かけるとき下着を着るのは当たり前.だけど,普通の人は下着を着てから,その上に何かを着て外に出るはずだ.でも,奈緒子さんはなぜだかその日はサマーセーターの上に下着を着ていた.鏡を見ないで無意識のうちに着替えてしまったら,切る順序が逆になってしまったようだ.

奈緒子さんは自宅から大学まで2つの電車を乗り継ぐ.駅を降りてからも大学までかなり歩く.だから,駅から大学に着くまで彼女の奇妙な姿に気づいた人は少なからずいたはずだ.でも,誰ひとり彼女に声をかけなかった.ひょっとするとクスクス笑い声を立てていた人ぐらいいたかもしれない.でも,奈緒子さんの耳には届かなかった.ひょっとするとまだ彼の言葉に傷ついていたのかもしれないよね.

物語が動いたのは,なんとその日の授業が全て終わってから,キャンパスを歩いているときに突然英語で呼びかけられた.「すみません.あなたの下着が見えていますよ」

To be continued ...

 

Turned out to be nothing 続・なんてことはない

 

 奈緒子さんは大学は英語で有名なところに行った.授業は全部英語だった.正直講義が理解できないことも少なくなかった.でも,内容がわからないのか,英語がわからないのかもはっきりしない.でも,大学名を外の人に引かれると「すごいね.英語ペラパラでしょ」と云われた.「それほどでもない」と答えたけれど,この国ではただ謙遜していると思われるだけ.否定する気にもなれなかったので放っておいた.でも,こういうことがあるたびに心に小さな空白のようなものを感じた.

ずっと暗くなっているのも奈緒子さんは嫌いだった.だから,華やかさを装うために,大学に入ったらすぐにテニスサークルに入った.でも,そこで出会う軽すぎる男性は好きになれなかった.でも,一人だけ真面目そうな先輩がいて,弁護士になろうとしているんだと云う.その先輩となんとなく付き合うことになった.

奥手だった奈緒子さんにとって,彼とデートするのは楽しかったけど,映画に一緒に行くのだけは嫌だった.彼が怪獣映画ばかり見るとかそう云うことじゃない.むしろ,彼はアメリカのサスペンス映画が好きで奈緒子さんの趣味にも近かった.嫌だったのは,映画の字幕だ.奈緒子さんにとって字幕はただただイライラされられるものに過ぎなかった.全て俳優さんの英語が聴き取れるわけではないけれども,画面を見ていれば話の筋はわかる.それなのに,存在を主張する字幕が憎くてしょうがなかった.

ある日わかってくれないと本当はわかっていたけれども,その不満を彼に口にしてみた.「嫌味だなあ.普通の人は字幕がないと何もわかんないんだよ.これだから帰国子女は」予想していた答えだったが,突然耳に氷を直に押し当てられたような感覚になった.彼は優しかったので,奈緒子さんが表情を変えたのにすぐ気づき謝った.だから,とりあえず別れるのはやめておいた.でも,この時から奈緒子さんの中で彼の評価はぐっと下がっていた.

To be continued ...

 

Turned out to be nothing なんてことはない

ちょっと書きっぷりを真似てみる

ハロウィーンは年1回しかないけど,TOEIC L&Rは年に何度もある.便利なのだが,年に10回以上受ける人はほとんどいない.でも,「ほとんど」であって「ぜんぜん」じゃない.毎回受ける人が少しはいるわけだ.山田奈緒子さん(仮名)もそのひとりだ.

奈緒子さんは,お父さんの都合で小学校の頃は北欧に住んでいたことがある.だから,英語は割とできた.みんなができることを期待しているので,重ねて勉強もした.成績で困ることはなかった.一人しかいなかったけれども,中学生の頃からずっと仲がいいイギリス人の友達もいて,英語で話すこともあった.英語で話すと,別の自分になれるような気がして気持ち良かった.

英語を話しているところを友達に見られるのは正直言って好きじゃなかった.だって,自分が完全な英語を話しているって思っているから.そんなんじゃないのに.後,苦労をしなくていいね,と云われるのも嫌だった.でも,それを口に出すことはなかった.そうすると他の人を傷つけてしまうことがわかっていたからだ.

To be continued ...