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多読について考える

英語学習法のひとつのほうで「やさしい英語をたくさん読め」っていう話を聞いたことがありませんか。あるいは「多読」という言葉で云われることもあります。 ところで、なぜこういう学習法が薦められ始めたのでしょうか。「やさしい英語をたくさん読んで」、英語がネイティヴのようになった日本人がいたからでしょうか。そういうこともあるかもしれませんね。でも、それが1番の理由ではないと思います。本当の理由は、Second Language Acquisition(註・面倒くさいので以下SLAとします)にそういう理論があるからです。英語学者や英語教育者の中には、英語圏の大学で TESL(Teaching English as a Second Language), TEFL(Teaching English as a Foreign Language), TESOL(Teaching English to Speakers of Other Languages)という学位をとっている人がいます。Krashen.jpgあるいは、Applied Linguistics(応用言語学)という言語学の勉強をした人かもしれません。そこで、SLAを多かれ少なかれ習ったのでそれを使ったんだと思います。 さて、おそらく「やさしい英語をたくさん」「多読」派の理論のよりどころは、Krashen という学者です。Krashen は言語学の大物 Noam Chomsky の理論を SLA に応用したと云われています。ちなみに、結構誤解があるようなので、ここで SLA の定番教科書How Languages are Learned (Oxford University Press)から引用しておきますが、
Chomsky has not made specific claims about the implications of his theory for second language learning.
とある通り、Chomsky は外国人の英語習得に彼の言語理論が応用できるとは云っていません。
How Languages Are Learned (Oxford Handbooks for Language Teachers S.)

How Languages Are Learned (Oxford Handbooks for Language Teachers S.)

  • 作者: Patsy M. Lightbown
  • 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (Sd)
  • 発売日: 2006/04/13
  • メディア: ペーパーバック

話がそれました。その Stephen Krashen は、The Input hypothesis という仮説を立てたんですね。これも同じ本から引用しますね:
If the input contains forms and structures just beyond the learners' current level of competence in the language (what Krashen calls 'i+1'), then both comprehension and acquisition will occur.
自分の実力(これをKrashen は "i" と表現しました)よりも少しだけ難しい語彙なり文法なりが含まれたインプットをすると、理解および学習がおこる。で、この理想的なインプットのレヴェルのことを彼は、 "i+1 (i plus one)" と読んだわけです。まあ、そんなわかりにくい話ではないですよね。平たく云えば、ある英語学習者の TOEIC スコアが 300 か 400 だったとして、CNN を聴いたり、Wall Street Journal を読もうとしても、チンプンカンプンだからほとんど効果はないですよね。逆に、TOEIC990 を毎回取っている人が、いわゆる『TOEICテスト新公式問題集』ばかりやっていてもあまり学ぶことはないですよね。それより、自分がだいたいわかるけれど、ちょっと難しいところがあるという教材を使った方が、そこを学習しやすいから勉強になるわけです。
TOEICテスト新公式問題集〈Vol.4〉

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ここまではぼくも大変よくわかります。ただ、この理論を踏まえて、「多読」を薦めるところでぼくは結構引っ掛かるところが出てくるんですね。それについてちょっと書きます。 ぼくの立場は、「やさしい英語をたくさん」「多読」というのは条件付きで賛成です。その条件というのは、適切なリーディング素材があれば、ということです。 さて、このころに詳しく書く前に、Krashen の話の続きをします。どこに書いてあったか探せないので、ぼくのうろ覚えで書きますが、Krashen は、pleasure reading という言葉で、いわゆる「多読」の薦め、に近いことを語っています。苦痛に感じたときは学習は起こらない、とも云っていたはずです。 ぼくは、Krashen の論文や著作を全部読んだわけではないですが、この辺から結構引っ掛かるところがいろいろでてくるんですね。いま、ここで「苦痛」という言葉がでてきましたね。英語では pain です。確かに、自分の実力と合っていない難しすぎる教材を読んでも「苦痛」に感じます。ただ、「苦痛」って本当にその場合だけなの、って感じがします。 ぼくは、Language とかいうタイトルの応用言語学の雑誌のバックナンバーをペラペラめくっていた時に、Krashen が Star Wars のドイツ語訳とフランス語訳を手に入れて、「これを読んでも文化的に何も学ぶことはないけれど、自分が背景知識を知っているがゆえに、すらすら読めるから楽しい」とか書いているのを読んだことがあります。 ぼくは、Krashen が云っていることはわかるし、ぼくも近いことをした経験もあるんですが、それはよほど語学が好きな人がやることだと思うんですよね。自分が知っている小説、たとえば村上春樹の名作の英訳を読むとか。それほどまでに語学をマスターしたいとかいう強い動機がない人には、「退屈」であり、もっと云えば「苦痛」になるのではないか、と。 このエントリーをいままで読んでいて、Krashen の理論にぼくが批判的だと感じられるかもしれないんですが、そうではないんですよね。ただ、この Krashen を応用して「多読」を薦めるときに教える側は結構注意しなけりゃいけないと思います。それは、学習者が内容的に興味を持てるか、です。で、意外と英語講師をやっている人や上級者にはそういうところが見えていないのかな、とぼく自身を含めて感じるのです。 ①単に、語学的な難しさによる「苦痛」じゃなくて、内容的に興味がもてないことによる「苦痛」があることを認める まず、これをしなければいけないでしょう。さっきの Krashen と STAR WARS で述べたとおり、入門者、初級者、あるいは中級者は、上級者ほど語学力がないので、英語そのものの楽しさはそれほどわからないのです。 これがわかった上でもう1段階考えた方がいいと思います。 ②内容的にも入門者の「おもしろい」、と上級者の「おもしろい」はかなり違っていることが多い 本当はこのことが書きたかったわけです。実は、英文科卒の人は、結構もともと読むこと、小説・文学・物語を読むことが好きな人が多いために、Graded Readers にある古典文学やミステリーをやさしい英語で書かれたものを読むのは楽しいだろうとみんな考えてしまうのですが、そうでもない人はかなりいるのです。 あ、誤解のないように云っておきますが、ぼくのことじゃないですよ。ぼくも、英文科ではないですが、文学部卒なので、こういうのを読むのはあまり抵抗はないのです。でも、自分がいろいろと教えながら、聴く話では、中学生・高校生時代から国語とか物語を読むというのが大嫌いなタイプの人には、こういう Graded Readers を読むのは苦痛以外の何物でもないようなんですね。 もう一つの傾向としては、時事英語ですね。Graded Readers がダメなら、The Japan Times Weeklyなどの英字新聞のWeekly版というのが次に考えられますが、これはこれで日本語の新聞やニューズを読むのが大嫌いな人には苦痛な訳です。Weekly版でも英字新聞の方が Graded Readers よりもだいぶ英語は難しくなるはずですから当然わからないことが出てきます。そのときに、上級者は「日本語の新聞を読んで、読み比べてみればいいんだよ」と云います。これももともと日本語の新聞を読むのが嫌いな人には、英語に加えて日本語の勉強を強要しているんですね。この場合も、上級者には時事問題に関心が多い人が多いですが、一般の人の関心はそれほどではありません。不思議なことに英語を教えるような人たちが「(英字)新聞ぐらい読まないと」という変な時事問題への関心を強要するのは少し奇異にぼくには感じます。また、ぼくの経験上、人生相談や3面記事などを除けば、日常語彙・生活語彙には英字新聞ではなかなか出合えません。大きなニューズであればあるほど使われる語彙も大げさになります。例えば、よく
ratify (vt.): to make a written agreement official by signing it. (Longman Advanced American Dictionary)
という単語を見ますが、このたぐいの難語より前に覚えたほうがいいような語彙・表現は山ほどあります。 というわけで、実は、「やさしい英語を読む」こと自体は大賛成なのですが、この辺は結構引っ掛かっていたので自分の意見を書きました。Graded Readers ですが、もっと How to ものだとか、non-fiction のものが増えてきた方が、大人の学習者の興味に応えられると思います。
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