Write to Do the Right Thing

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できないんだから、人の10倍やれ」論を批判します

別に英語に限らず、できない(あるいは、そう思い込んでいる)人が悩んでいるときによく、「おまえは、できないんだから、人の10倍やらないと」のようなアドヴァイス(とよべるのでしょうか……)を送る人がいます。英語講師の人でさえそういう人がいます。自分は上から目線でできない人に繰り返しやれと云って嗤(わら)っています。ぼくはそういう英語講師の人が大嫌いです。 それに、日本人の苦労を極端に重んじる国民性からの発想なのか、なんなのか知りませんが、こういう「とにかく」「ひたすら」の努力を強要するような言葉はぼくは嫌いです。それは、ぼくが「スポ根」が嫌いで、「ミステリー」が好きな人間だからかもしれません。話がそれました。 ぼくはこの「人の10倍論」自体は否定的なのですが、この論についていろいろ考えてみることは英語学習に対する新たな発見が生まれます。そのことを以下に書きました。 「人の10倍論」を英語学習にあてはめてみた場合、何を人の10倍やるのか、考えて見ます。おそらくどう考えても、次の2つしかないような気がします。
①量 ②時間
①は英語学習ということで考えると、英語のインプット(読む、聴く)量ですよね。もしくは、アウトプット(話す、書く)量かもしれません。さて、この量を「できない人」が「できる人」の10倍やることは可能なんでしょうかね。ぼくは断言します。不可能です。できればできるほど、インプット、アウトプットの量は増えます。たとえば、超上級者、あるいはネイティヴスピーカーにとっては、ぼーっと生の英語を聴いている、読んでいるだけでもインプットになるでしょうが。初級者、中級者はこうは行きません。とくに、初級者の場合、英語ニューズを聴いたとして、ほとんどわかりませんから、いくら時間を聴いてもネイティヴはこんなに早く話すのか、ぐらいしかインプットしないことになります。 それでは、②についても考えて見ましょう。まあ、これは①よりもいくぶん現実的です。とにかくわかっていようとわかっていまいと、時間をかけさえすればいいのですから。それでも、わたしたちは、いくら自己啓発の「時間管理」本を何冊やろうと英語に一般的な人間がかけられる時間というのは有限だ、ということを知っておいたほうがいいでしょう。 さて、これだけなら、単に「人の10倍論」を否定した、文句を云ったに過ぎません。それでは、建設的ではありませんね。この論を建設的なものに発展させるために、ぼくは対案を考えたいと思います。 ここでは、「できる人」と「できない人」が知っている単語や文法などのレヴェルの違いについては無視することにします。そのようなミクロ的な違いも大事なのですが、その論議をすると、初級者はこのレヴェルの知識を知っているべきだ、……という感じの話になってしまいます。その面については優れた研究がいろいろ出ているし、いい教材というのはその研究を踏まえて製作されています。それより前に、英語が「できる人」と「できない人」のマクロ的な違いというのは何かをしっかり認識しないといけない気がします。 簡潔に述べれば、英語学習においては、できればできるほど、1度に処理できる課題 (task) が多くなります。どういうことなのかというと、リスニングを例にとってみましょう。あるリスニングの素材を聴くことにします。超上級者は、1回普通に聴くだけで、
①発音・イントネーション・リズムを確認する(自分が間違って覚えていた発音を確認する、ほとんどないから、その場で覚えられる) ②自分の知らない単語をチェックする(数が少ないから、覚えておいて後で調べられる、あるいは文脈から意味が分かっている) ③文法構造を意識にとめる(文法の知識は充分なので、自分がまだ使いきれない文構成、あるいは自分なら別の云い方をするというような面白い部分を意識にとめる) ④発話の全体的な構成を確認する(大概の場合は慣れているので意識する必要はない、型を崩した構成の場合だけ意識にとめる) ⑤内容を理解する ⑥⑤を受けて、内容について学習する
このようなことができてしまいます。たぶん、もっとあると思いますが、思いつかないだけです。しかし、初級者・中級者にはこれは無理です。だから、1回でこれをやるということをあきらめる必要があります。考えてみれば、最初にあげた「人の10倍論」もここから来ているのかもしれませんね。上級者は1回でできることは10回やる必要がある、と。 しかし、ぼくに云わせれば、同じことを10回繰り返しても大して効果はないです。いや、1回よりはいいでしょうが、たかが知れています。なぜなら、10回やったとしても、上級者にはこなせるが、初級者にはできないという複数の課題を同時にこなす、ということをやり続けているからです。 そう、ぼくが「できない人」に薦めるのは、自分の目的をはっきり決めて、1回で処理する課題を意識的に減らすことです。つまり、リスニング素材を聴いているときを仮定すると、
- 全体的な意味がわかるか確認する - 聴いたことのない音の単語があるか確認する - 1文1文を丁寧に聴き、知らない文法構造がないか確認する - 意味は分かったものの、自分が使いきれていない文法構造の文を意識して聴く - 発音を確認する - イントネーション・リズムを確認する - (まとまりのある素材の場合)スピーチ・会話の構成に注意する - なじみのない表現、あるいは覚えたい、使ってみたい表現を学ぶ
上にかいた1項目以上の課題を1回のリスニングに初級者なら要求しないことです。中級者でも2つぐらいにとどめておくことです。まあ、必然的に、同じ素材、同じ行動を繰り返すことにはなりますから、回数は増えるでしょうね。この意味では、「人の10倍論」に重なります。ただ、同じことを繰り返すのと、1回1回目的を換えることは違います。だから、どちらかというと、ヒロ前田さんの新TOEICテスト「直前」模試3回分 [単行本] / ロバート・ヒルキ, ポール・ワーデン, ...で指摘されている「3回チャレンジ法」と似た部分もあります。この模試本をやるのもかなりの上級者なら、1回さらっと本番のように説けば、テスト形式を理解し、知らなかった単語・文法を確認し、さらに受験テクニックも身に着けてしまうでしょう。だけど、そういう人は多くはないので、3回(程度は)やる必要があるはずです。しかし、ぼくのもっとも云いたかったことは、繰り返しますが、意識的に1回で処理する課題を減らすことです。量・時間・回数をどうするかはその人の問題かなとも考えます。 いまここに述べたことは、とくにSecond Language Acquisitionに基づいた知識を述べたことではありません。というか、よく考えれば誰でもわかりそうなことです。自分で云うのもなんですが、極めて常識的なことを述べすぎてがっかりしているくらいです。ただ、これを書く気になったのは、「人の10倍論」を説くなら、体育会的に学習者を鼓舞(こぶ)させる目的以外なら、これくらいは説明する必要があるんじゃないかと思ったからです。で、主にここではわかりやすいと思ったのでリスニングの例を出しましたが、他の3スキルでも一緒です。