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Write to Do the Right Thing

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機能英文法と英語教育

ここに書くのは本当に久しぶりです.今回は新しい記事を書きます.

京都大学の山中教授がノーベル賞を受賞された,というニューズが日本に流れたのはつい先週のことだったように記憶しています.ぼくは日本の新聞やテレビを見ないのでいまも話題になっているかは知りません.

ところで,なぜ山中教授はノーベル賞を受賞したのでしょうか.当然のことながら,すぐれた業績を残したからです.ではそれってどういうこと? 簡潔に云えば,山中教授が行なった自然現象の中に見られる諸事実における客観的な法則を発見したからです.そして,その法則が,おそらく世界中の普通の人々(大衆,people)によって役立つものであると推測されるからです.

上記に書いたことは,別にもっともらしいことを云ってみたかったからではなくて,学問(science)の定義です.では,言葉の学問である言語学(linguistics)ではどうなのでしょうか.もちろん,基本的に,普段はなされている言葉を収集し(実際,集めている人がいます.そこれをcorpusとかよんだりします),分類し,整理して,共通法則を発見します.「この単語はこういう文脈で使われていることが多い」とか「この単語は若い女性しか使わない」とか.もちろん,これは1例に過ぎません.

ところで,英語学習者を苦しめている,ではなかった,英語教師や英語の得意な人にとっては好きでしょうがない英文法(厳密にはgrammarというのは幅広い概念を含むので,syntaxと呼ぶのが正確です.ただ,ここではそういうことは無視することにします)というのももちろん,このような形で見つけられた法則の集まりであるはずです.優れた言語学者が自然に使われている英語を集め,分析し,ルールを発見する.そのルールを無意識に体得していないノンネイティヴが,そのルールを覚えて,使うとネイティヴ(およびそれに近い人たち)とのコミュニケイションがスムーズにすすむ……

しかし,はっきり書いてしまえば,実際の日本の学習者が文法をマスターして,英語がよくわかり,すらすら話せるようになったという話はあまり聞きません.もちろん,いないわけではないでしょうが.むしろ,文法をある程度マスターした(と思っている)のに話せないとか,文法に苦しめられている人のほうが圧倒的に多いと思います.ここでは,「気合いが足らん」とか「文法だけで話せるようになるわけがない.話す練習もしなければだめなんだ」というような1面としては頷ける指摘はとりあえず,無視します.それよりも,自然現象の法則の集合体であるはずの英文法が英語習得に(少なくとも)それほどは役に立っていない(と考えられる)理由を考えてみたいと思います.

ひとつの理由は,学校で習っている英文法は最初に述べたようなネイティヴが無意識のうちにしたがっている英語のルールの集合体とは異なっているからです.いまでは,先ほど述べたような話し言葉,書き言葉を大量に集めて分析するような本格的な科学としてとしての言語・文法の研究はできますが,過去はできませんでした.

しかし,かなり古くから英語圏に英語で書かれた文法書というのはありました.それは,偉い学者や学校の先生が,ネイティヴスピーカーの(主に)若者に向けてきちんとした英語を書きなさいという意図で書いたものです.だから,自然に守る法則というよりは上から押し付けられる形で守らなければいけない法則です.いわゆるしつけのようなものです.このことが一概に悪いとは云えません.共通の書き言葉のルールを守ることで,コミュニケイションが円滑に進む側面があったことは否定できないので.

しかし,自然な英語にはない規範を守らせる部分もありました.たとえば,「誰とデートしているの?」という,

Who are you going out with?

を「前置詞で文を終わらせてはいけない」かつ,「前置詞の目的語には目的格の関係代名詞を使わなければいけない」というラテン語からきたルールを強引に適用して,

With whom are you going out?

とさせる面もありました(いまでも,させるアメリカ人の英語教師もいます).2番目の文がいけない訳ではありませんが,あまり自然な文ではありません.もし,FriendsやHow I Met your Motherのようなドラマのシナリオライターが2番目の文を書いたら,自然な1番目の文に直せと云われるかもしれません.

日本で売られている文法書は実は,こういう昔の英文法書を翻訳しできた文法書を何度も改訂したりしてできたものです.満足に簡潔な単語と文法でも話せない学生にネイティヴでもマスターしていない書き言葉のルールを教えている側面があることは否めません.

できれば,学習者が覚えるべきルールは重要なものに絞り込んでほしいものだと思います.

第2の理由は,ネイティヴスピーカーがある文法法則にしたがっているからと云って,英語学習者がルールを覚えて,すぐにそれを適用できるかというとそうではないわけです.当然,そのルールが自分がいま読もうとしている,作ろうとしている英文に適用できるか判断し,実際に適用してみて,正誤を確認する,といういわば trial and errorの過程が必要になります.それを多くの人はルールを全部覚えたら,すぐ使えると勘違いしています.ネイティヴスピーカーの英語の先生が「間違いを恐れずに話しなさい」というのは間違えながら,ひとつひとつルールを自分のものにしていくしかないと知っているからなのです(勿論,適当に云っているだけの人もいるでしょうが).

第1,第2の理由はすべてのノンネイティヴの外国語学習者に云えることですが,第3の理由は日本,少なくとも東アジア特有のものでヨーロッパやシンガポール,マレーシア,あるいは北米の外国語学習者にはあまり見られないものです.

日本人は英語で何ができるか,ということを念頭に置きながら英語学習をする人はあまりいないし,英語教育自体もそういうことを踏まえてデザインしているわけではありません.極端に云えば,文法と語彙の習得しか関心がありません.

いや,そんなことはない,という人もいるかもしれません.「英語でいろいろな国の人とコミュニケイションしたい」「英語で貧しい人を救いたい」とかしかし,そういうライフデザインのような大きな話ではなく,英語における言語活動の機能(function)をマスターする発想がほとんどないことです.「問い合わせる」「説得する」「ごまかす」「嘘をつく」「嘘を見抜いたけれども,指摘するのはかわいそうだから見逃してあげる」とか.それぞれの機能ごとに大まかな型が決まっているのでそういうことに注意を払わず.日本語で考えたことを知っている単語と文法で文を作って対応しているのが現状です.

じっさいのところ,そういった機能ごとに使われる文法や語彙というのはある程度決まっています.特に文法については,機能英文法(functional grammar)という分野での研究が進んでいて,実際の教室に応用できる形での教師用の文法書も最近たくさんでています.しかし,……誰もそんなことをやろうとしないんですね.

英検とかTOEICとかもCommon European Framework of References for languages (略称CEFR,セファーのような感じで発音される) を真似して(いるのかどうかは知りません),抽象的に「このレベルはこれこれのことができて……」のように書いていますが,あいにく学習者も教育者もこんな部分を読む人はいないし,それがひとつひとつの文法事項のマスターと関係があるとはだれも考えたりはしません.

たとえば,関係代名詞のひとつの機能に相手もしくは自分が短い単語で説明できない概念を定義するというのがあります.

A: Have you met Kanako?

B: Kanako? I'm not familiar with the name. Is she in this room?

A: Yeah, right over there. The girl who is talking to Wendy, you know, wearing a blue dress.

B: Oh! I know her, but I've forgotten her name. What's her name again?

A: Well, what you may call it... a vehicle that does not have an engine and has two tires. It's an easy word. But, my brain is totally burnt out and I can't recall the word.

B: You mean "bike".

このように関係代名詞をマスターすることで,会話の際にできることが増えていく,と感じられればもっと文法の勉強の苦痛も取り除かれると思うのですが,多くの日本人英語教師の場合,「1つ目の会話でのwhoを含んだ文はfragment(不完全な文)だ×にしてやれ,お前には単位はやらん」とか「自転車という単語も忘れるとは何事じゃ.成敗してくれるわ」という感じになってしまうので,難しいですね.

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