Write to Do the Right Thing

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初級者用の本を出した理由

TOEIC TEST きほんのきほん:  どう勉強していいかわからない超初心者に、一歩一歩道筋を示します [単行本] / 石井 洋佑, カール ロズボルド (著); 国際語学社 (刊) 事情があっていまオランダにいます.先月4冊目のTOEIC本を出しました.本自体の紹介はこの本の「まえがき」「この本の使い方」にすべて書いてあるのでここでは書きません.この本の内容には結構自信をもっています.信頼できる共著者と何度も議論の末に完成させた原稿ということもあります. ただし,結構出版市場では苦戦しています.原稿が遅れ,さらに,さんざん休日出勤と徹夜をさせてしまった国際語学社の担当編集者の小田さんには申し訳ないな,と思っています.ただ,誤解を恐れずに書けば,実はこの状況はある程度予想していました.この本はかなり英語の苦手な人をターゲットにした初級者用の本だからです.この変に実は出版の秘密があります. TOEICの本試験の実際の平均点は600点に満たない560点-580点程度です.900点あるいは満点近くとる人がこれほど増えてきても,です.ということは,5点から500点ぐらいまでにものすごい層の人がいることになります.しかし,TOEIC関係の出版物は飽和市場にも関わらず,この層をターゲットにした本は殆どありません. なぜなら,これらの初級者は英語が嫌いなので自分でお金を払って本を買ったりしないからです.また,教材を選ぶ能力がないからです.最近は,かなり濃い読者がいて,「問題ポイントが本番のものと同じか極めて近いか」「場面・トピックが本番とずれていないか(このことをこの濃い読者たちは「世界観に沿っている」というコロケーションを使います)」などのチェックポイントから厳しく吟味(ぎんみ)を加えている状態にあります.ただ,こういうことは初級者にはできないのです.だから,せっかくいい本を書いても報われないことが多いので多くの著者は,というよりも出版社が敬遠してきたのです. でも,それにも関わらずぼくがこの本を書くことにしたのはいくつか理由があります. まず第1に,最初には有名な著者と無駄な勝負をしたくなかったからです.はっきり書いてしまえば,それなりに質の高い本を書いている人はもうすでに決まっています.その人たちと同じだけの努力をして,いやそれ以上の努力をしたとしても,冷酷に現実を見据(す)えれば,ぼくがそういう本と同じ売り上げの本を出すことは不可能でしょう.当たり前ながら,先にいい本を書けば,それだけ過去の読者が本の営業に貢献してくれる上,書店などの流通の際にすでに売れるサイクルが出来上がっているからです.そういう状況の中でぼくが同じゲームで争っても,自爆するだけです.だから,争わずして勝つ,というか負けない方法を取りました. 次に,企業研修などを通じてやはり初級者層にある程度TOEICを知っている著者が書いた教材が求められていることを知っていたからです.こういう研修の受講生は自分では本を買いませんが,講師や研修担当者に営業をかける手もあるのではと(自分は営業とかは大嫌いにもかかわらず)思うようになりました.また,こんなことを書くのは問題があるのかもしれませんが,すでに満点近くを取った人たちがインターネット上で次々と出る本のダメだしをしているのを見るのに違和感を感じ,本当に必要としている人たちに基本的な情報を届ける役割に徹する役割を自分が担うべきだと思うようになりました. 書くことを決めてからは,読者が気づいてくれることはないけれど,全体を貫(つらぬ)く芯のようなものがないと本はダメだと思っていたので,一応はきちんと勉強した(はずの)Second Language Acquisition(第2言語習得理論,以下SLA)に元づいた学習書づくりをこころがけることにしました.世の英語ライターや英語講師は意外と理論を信じていないで,昔からの学習法にしがみつく傾向がありましたが,ぼく個人は世の中結構理屈だと思っています.SLAは基本的にアスリートにとってのスポーツ科学のようなものなので,もちろん,競技ごとの実践練習が最も大事ですが,大きく計画を組む際に,時間軸に沿って科学的に組まれた練習のほうがいいに決まっています.ぼくはそれを英語学習に応用し,どうしたら「気合い」「根性」に頼らない継続的な学習ができ,学習したことが身についていくのかということを考えて本の企画を練り始めました. 幸いその企画を小田さんに買って頂き,カール・ロズボルドさんが共著者に決まり,本格的に執筆が始まりました.1年以上に渡る執筆期間はそれなりにつらいこともありましたが,ぼくの頭にあることは執筆期間中もいまの執筆後も変わっていません.情報弱者である超初級者に正しく効率的な学習法を提案することです.カールさんのおかげで本に使われている英文の質が飛躍的に高まったこともあり,内容にも自信があるので,この本が売れてくれることをもちろん望んでいますが,この本をきっかけにして,高得点者層に偏(かたよ)り勝ちのTOEIC教材に動きが生まれることを願ってやみません. ぼくは'“The owl of Minerva spreads its wings only with the falling of the dusk.”(ミネルヴァの梟(ふくろう)は夜羽ばたく)という言葉が好きなので,物事は終わるまでその因果関係はわからないと承知しているつもりですが,現在のところでは,難しいことを知っていながらも初級者用の本を思い切って出してよかったと思っています.
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